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大阪地方裁判所 昭和37年(行)26号 判決 1967年6月19日

宝塚市切畑字長尾山二番地の二一八

原告

武智祥行

右法定代理人親権者父

武智豊

母 武智文子

右訴訟代理人弁護士

川見公直

山口幾次郎

川見公直訴訟復代理人弁護士

北川新治

浜田行正

大阪市東区大手前之町、大阪合同庁舎第一号館

被告

大阪国税局長

高木文雄

右指定代理人大蔵事務官

坂上竜二

本野昌樹

法務大臣指定代理人検事

川井重男

主文

一、被告が原告に対し昭和三七年二月二七日付をもつてなした昭和三三年度分贈与税の更正処分に対する審査決定のうち別紙第二目録(イ)(ロ)の物件に関する部分を取消す。

二、原告のその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用はこれを二分しその一を原告の、その余を被告の負担とする。

(事実及び理由)

第一申立

(原告)

「被告が原告に対し昭和三七年二月二七日付(大局直資(相)第一〇三号、大協四〇号)をもつてなした昭和三二年度分贈与税の更正処分に対する審査決定のうち別紙第一目録(1)(4)記載の物件に関する部分および同日付昭和三三年度分贈与税の更正処分に対する審査決定のうち別紙第二目録(イ)(ロ)記載の物件に関する部分をそれぞれ取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決。

(被告)

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決。

第二争いのない事実

一、昭和三二年度の課税処分

(一)  贈与税決定および更正処分

西宮税務署長は、昭和三五年二月一日、原告が昭和三二年度中に大阪市東淀川区塚本町一丁目一番地の宅地一、〇〇一・六五平方メートル(以下、塚本町の土地という)を祖父武智亀吉より受贈したとしてその贈与財産価額を一、四〇五、九二〇円と認定、これに対する贈与税額を決定したが、同月一七日、右年度中に原告は右宅地以外の土地、家屋等も亀吉より受贈しているとしてその贈与財産価額を三、八四〇、八八〇円と認定しこれに伴う贈与税額を決定する旨の更正処分をなした。

(二)  審査決定

原告は、右更正処分を不服として再調査請求をしたところ、みなす審査に移行し、被告は、昭和三七年二月二七日、原告の昭和三二年度中における亀吉からの受贈物件は別紙第一物件目録(1)ないし(4)記載のとおりであり、その贈与財産価額は合計二、〇六三、〇六九円であると認定し、右更正処分を一部取消す旨の審査決定(大局直資(相)第一〇三号、大協第四〇号)をなした(以下、昭和三二年度審査決定という)。

二、昭和三三年度の課税処分

(一)  更正処分

原告は、昭和三三年度中に大阪市西淀川区花川南之町二三九番地上の家屋を亀吉より受贈した旨申告したところ、西宮税務署長は昭和三五年二月一七日、原告は同年度中、右以外にも亀吉より土地家屋を受贈しているとしその贈与財産価額を三、四一六、八七四円とする旨の更正処分をなした。

(二)  審査決定

原告は、右更正処分を不服として再調査請求をしたところ、みなす審査に移行し、被告は、昭和三七年二月二七日、原告の昭和三三年度中における亀吉よりの受贈物件は別紙第二目録(イ)ないし(ニ)記載のとおりであり、その贈与財産価額は合計二、二七八、五〇七円であると認定し、右更正処分を一部取消す旨の審査決定をなした(以下、昭和三三年度審査決定という)。

三、受贈物件

原告は、亀吉より、昭和三二年度中に別紙第一目録(2)(3)の土地、家屋を、同三三年度中に別紙第二目録(ハ)(ニ)の家屋をそれぞれ受贈した。

四、土地、家屋に関する登記

原告主張の土地家屋(塚本町の土地、別紙第一目録(4)の家屋、同第二目録(イ)(ロ)の土地、家屋)については、それぞれ原告主張の日時にその主張の如き内容の各登記がなされている。

第三争点

(原告の主張)

一、昭和三二年度課税処分の違法性

(一) 現金六〇〇、〇〇〇円(別紙第一目録(1))について被告は、原告が塚本町の土地の購入資金六〇〇、〇〇〇円を亀吉より受贈したというがそのような事実はない。塚本町の土地につき原告が昭和三二年七月二日亀吉からこれを金六〇〇、〇〇〇円で買受けたとして、同年九月二日付で右売買を原因とする所有権移転登記がなされたことは、事実であるが、右は錯誤に基くものであつたため取消され同三五年五月二七日右所有権移転登記の抹消登記手続を了している。したがつて、原告が右土地の所有者でないことは明らかであり、右土地を買受けたこともないのであるから、右土地購入資金としての現金の贈与を受ける筈もない。

また被告は、原告が右土地の購入資金として現金六〇〇、〇〇〇円を亀吉より受贈したとしながら、一方、原告が右土地の買受代金六〇〇、〇〇〇円を原告名義の預金から引出して支払つたというのは主張自体矛盾するものといわねばならない。しかも、原告名義の預金通帳には必ずしも原告の収入のみが預金されているものではなく(祖父母が子または孫の名義で預金口座を開き勝手に預金の出入れを行う慣行は公知の事実である)、また、原告の右年度中の収入の認定も被告の独断専決であつて事実にそぐわないものであるから、このような誤つた前提に立つて認定された現金六〇〇、〇〇〇円の贈与の認定はそれ自体誤りであり取消さるべきものである。

(二) 南之町の家屋(別紙第一目録(4))について

右家屋は、原告が自己資金により建築したものであり、亀吉から受贈したものではない。すなわち

(イ) 右家屋は、原告が、原告の父武智豊が昭和三一年初めごろその所有にかかる木造平屋建居宅を取毀した際、その古材(時価五八、〇〇〇円相当)をもらい受け、これを使用して訴外辻井清に代金一六七、〇〇〇円をもつて請負建築せしめたものであり、同年五月ごろ完成した。

(ロ) しかして、右家屋は三戸一棟の建物であつたため、原告は訴外滝田皓久に保証金一五〇、〇〇〇円、賃料四、〇〇〇円、訴外山田益夫に保証金一五〇、〇〇〇円、賃料四、〇〇〇円、訴外千野久之助に保証金一二〇、〇〇〇円、賃料四、〇〇〇円で賃貸し、右保証金のなかから訴外辻井に対する請負代金を支払つた。

(ハ) しかして、右家屋建築についての請負業者に対する交渉、右入居者に対する賃貸借契約締結等一切の行為は亀吉が原告の代理人となつてその衝に当つていたが、右家屋の建築主、所有者はあくまで原告であり、亀吉より受贈したものではない。

二、昭和三三年度課税処分の違法性

―長尾山の土地、家屋(別紙第二目録(イ)(ロ))について―

(一) 右土地、家屋については、原告が昭和三三年三月二八日付売買により代金七五〇、〇〇〇円で亀吉より買受けた旨、同年四月二日付で原告への所有権移転登記がなされているが、右売買は亀吉の錯誤に基くものであつたため右錯誤を理由に同三五年五月二八日付で右所有権移転登記の抹消登記手続を了しており亀吉の所有物件である。したがつて、被告がこれを贈与と認定したこと自体明らかに誤りである。

(二) 右土地、家屋は、昭和二九年以来、亀吉がその賃借人中村政喜に対し明渡の訴を提起、係争中の物件であり(第一審神戸地方裁判所、第二審大阪高等裁判所、第二審において昭和三五年一月一六日亀吉勝訴の判決)、その係争中たる昭和三三年三月二八日に亀吉がわざわざ原告に贈与する筈もなく、原告は右訴訟につき何ら参加等の手続をとらず、最後まで亀吉が所有者として右訴訟を遂行したものである。

(三) 尤も、錯誤にもせよ、昭和三三年四月二日付で一旦、原告への所有権移転登記がなされ、昭和三五年五月二八日に抹消登記がなされるまで二年二月余原告の所有名義のまま放置せられており、しかも西宮税務署長の更正処分通知(昭和三五年二月一七日)後に右抹消登記がなされているので、一応問題があるやに思料せられるが、原告は既述の如く右土地家屋の所有権を取得したことはなくまた何らの利益も受けていないのであり―受益のないところに課税はない―、しかも、右物件の所有名義は少くとも右西宮税務署の更正処分の確定前に錯誤により取消されて名実共に亀吉の所有に帰しているのであるから、被告が右贈与税課税処分を維持すべき法律上の根拠は何もなく、また、これを維持しなければ第三者の権利を害するということも全くない。

三、本訴請求

したがつて、昭和三二年度審査決定中の別紙第一目録(1)(4)に関する部分および昭和三三年度審査決定中の別紙第二目録(イ)(ロ)に関する部分はいずれも違法なものとして取消さるべきものであるので、原告はその取消を求めるため本訴に及んだ。

(被告の主張)

一、昭和三二年度課税処分の適法性

(一) 現金六〇〇、〇〇〇円(別紙第一目録(1))について

(1) 原告は、昭和三二年七月二日塚本町の土地を亀吉より代金六〇〇、〇〇〇円で買受け所有権を取得している。原告は、右売買代金六〇〇、〇〇〇円について三和銀行塚本支店の原告の預金から金六〇〇、〇〇〇円を引出して亀吉に支払つた旨申立てていたが、原告は右当時八才の小学生であり(昭和二四年一月一五日生)、元来、無収の身であるので右土地購入資金の出所につき調査したところ、前記六〇〇、〇〇〇円引出しの事実は認められたが、原告の収入に関し次の事実が判明した。

(イ) 収入九〇三、〇〇〇円

原告自身の昭和三二年度中の収入として認定できる金額は左の(a)(b)合計九〇三、〇〇〇円のみである。

(a) 大阪市西淀川区花川南之町三五番地上の家屋(別紙第一目録(4))の賃借人より同年度中に受領した敷金一五〇、〇〇〇円および家賃二三、〇〇〇円の合計一七三、〇〇〇円

(b) 同町二三九番地の家屋(同目録(3))の賃借人より受領した敷金四八〇、〇〇〇円、調査費一〇〇、〇〇〇円、家賃一五〇、〇〇〇円の合計七三〇、〇〇〇円

(ロ) 預金一、四五〇、〇〇〇円

一方、原告の同年中の預金総額は、三和銀行塚本支店の九〇〇、〇〇〇円、池田銀行川西支店の五五〇、〇〇〇円合計一、四五〇、〇〇〇円に達している。

(2) 資金贈与の認定

しかして、右(1)の不動産賃貸による収入のうち固定資産税その他の経費五三、〇〇〇円を控除した残額八五〇、〇〇〇円全額を預金したとしても右預金総額に六〇〇、〇〇〇円不足するのであり、同年中原告には右(1)の収入以外に収入が認められないことおよび原告名義の預金からは金六〇〇、〇〇〇円を出金した以外に預金の引出しがないこと等を総合考慮し前記塚本町の土地の購入資金六〇〇、〇〇〇円は亀吉より受贈したものと認定した。被告の右認定は適正妥当なものであり何ら違法はない。

(3) なお、右塚本町の土地につき原告への所有権移転登記の抹消登記手続がなされていることはその主張のとおりであるが、亀吉、原告間の売買が適法に行われ代金六〇〇、〇〇〇円が現実に授受せられたことは明らかであるから(右代金は右の抹消登記にもかかわらず原告に返還されていない)、昭和三二年度中に課税原因たる事実は発生しているといわざるを得ない。

(二) 南之町の家屋(別紙第一目録(4))について

右家屋は、昭和三一年四月ごろ建築されたものであり未登記、未登録の物件であつたが、従来亀吉が貸主として賃貸しており、敷金、賃料等も同人が受領していたことからみて、亀吉の建築、所有にかかるものと認められるところ、昭和三三年一〇月二四日に至り大阪市西淀川区役所備付の固定資産税台帳に原告名義で登載されたので、右登載の日に亀吉から原告に贈与されたものと認定した。

二、昭和三三年度課税処分の適法性

―長尾山の土地、家屋(別紙第二目録(イ)(ロ))について―

(一) 右土地、家屋は、昭和三三年三月二八日売買により亀吉から原告へ代金七五〇、〇〇〇円で譲渡されたとし同年四月二日付でその旨の所有権移転登記がなされているが、原告が右売買代金七五〇、〇〇〇円を出金したと称する三和銀行塚本支店における原告の普通預金の昭和三三年度中の入出金状況および同年度中の原告の収入状況は別紙一覧表のとおりであり、右売買代金が原告の自己資金によつて支払われたものと認むべき資料はなく、原告は対価を支払わないでこれを取得したものであるから、亀吉より受贈したものと認定した。

(二) なお、原告は、当初、右物件について亀吉より原告に所有権が移転したこと自体は否定せず、これを自認していたのに、その後二ケ年余を経過した昭和三五年五月二八日に至り突如として信用すべからざる理由により錯誤による抹消登記をなし所有権は亀吉名義に復したというのであつて、右抹消登記が実体に則しない無効のものであることは勿論、仮に所有権は亀吉に復したとしてもその効力は右錯誤による抹消登記の日(昭和三五年五月二八日)以後にのみ主張しうるものであり、被告の前記認定の適法にして有効なものであることには変りがない。

三、贈与財産の価額

昭和三二年、三三年度中の各贈与財産の価額は別紙第一、二目録の各金額欄記載のとおりである。

第四証拠

(原告)

(1)  書証 甲第一ないし六号証、同第七号証の一、二、同第八号証の一ないし四、同第九号証の一、二、同第一〇号証

(2)  人証 証人武智亀吉の証言

(3)  認否 乙第一〇号証、同第一七号証の二、同第一八号証の一、二の各成立は不知。

同第一七号証の三の官署作成部分の成立は認めるがその余の部分の成立は不知。その余の乙号各証の成立は認める。

(被告)

(1)  書証 乙第一ないし六号証、同第七号証の一、二、同第八ないし一六号証、第一七号証の一ないし三、同第一八号証の一、二

(2)  人証 証人磯崎栄太郎、同畑中英男、同菱矢隆夫の各証言

(3)  認否 甲第一号証、同第七、九号証の各一、二の成立は認める。甲第八号証の一ないし四、同第一〇号証の成立は不知。その余の甲号各証の認否は左のとおり。

甲第二号証

一枚目末尾の(1,405,920―これは塚本303坪)の記載部分

二枚目末尾の(2,063,069―と1,405,920との関係)の記載部分

二枚目の(2,063,069)のアンダーライン部分

以上の部分の成立は不知。その余の部分の成立は認。

甲第三号証

決(取消)の部分

更正 再更正の部分

(817,510、204,250)のアンダーライン部分

以上の部分の成立は不知。その余の部分の成立は認。

甲第四号証

(要納付額)の部分

(620,080、155,000)のアンダーライン部分

以上の部分の成立は不知。その余の部分は認。

甲第五号証

(1,083,400、54,150)のアンダーライン部分の成立は不知。その余の部分の成立は認める。

甲第六号証

一枚目の(523,100、26,150)のアンダーライン部分

二枚目の(納付済の分)、(二三九番地の分は決済されているものであるから除外さるべきである)との記載部分

以上の部分の成立は不知。その余の部分の成立は認。

第五争点に対する判断

一、昭和三二年度審査決定

(一)  現金六〇〇、〇〇〇円(別紙第一目録(1))の贈与

証人武智亀吉(一部)同磯崎栄太郎の各証言および弁論の全趣旨によれば、原告は昭和三二年当時小学生(昭和二四年一月二五日生)であり、その所有にかかる家屋の賃貸による敷金、賃料以外にはこれといつた定期的収入の途はなく、その他は母方の実家からの祝金を除けば祖父亀吉からの受贈が殆んど唯一の財産取得原因であつたところ、昭和三二年度中の右敷金および賃料による収入のうち預金しうるものは被告の主張する如くおよそ八〇〇、〇〇〇円余り位にすぎなかつたと認められる。原告にそれ以上の現金収入があつたと認めさせるに足る証拠はない。

ところで、いずれも成立につき争いのない甲第七号証の一、乙第七号証の一、二、同第八、一六号証、証人畑中英男の証言により成立の認められる乙第一七号証の一ないし三(但し、同三のうち官署作成部分については争いがないのでその余の部分について)、証人菱矢隆夫の証言により成立の認められる乙第一八号証の一、二によれば、原告は昭和三二年七月二日亀吉より塚本町の土地を代金六〇〇、〇〇〇円で買受け即日代金を支払つたが、右代金は原告が同年五月八日から六月二二日までの間に三和銀行塚本支店に預け入れた普通預金六一五、〇〇〇円の中から金六〇〇、〇〇〇円を引出して支払われたものであること、原告の同年度中における普通預金の預け入れ総額は三和銀行塚本支店の九五〇、〇〇〇円(但し、元本のみ)と池田銀行川西支店における同年五月一〇日預け入れの五〇〇、〇〇〇円を合せ合計一、四五〇、〇〇〇円に達しており、前記敷金、賃料による預金よりもおよそ六〇〇、〇〇〇円位多いこと等の事実が認められ、前記の如く賃料収入以外は亀吉よりの受贈が殆んど唯一の財産取得原因であつたことを考慮すると、右預金のうち賃料収入による預金額をこえる部分は亀吉からの贈与により取得したものと推認するほかなく、塚本町の土地購入資金に相当する金六〇〇、〇〇〇円を原告が亀吉より受贈したものとした被告の認定も肯定し得ないではなく、同年度中に同現金を受贈したことは否定し得ないところと認められる。

なお、原告は、原告名義の預金のなかには父母ないし祖父の収入と目さるべきものも含まれているというがこれを肯認せしめるに足る証拠は何もなく、また、塚本町の土地の売買は錯誤により取消されたと主張し、昭和三五年五月二七日その主張の如き錯誤による抹消登記がなされていることは争いがないが、右錯誤の存在ないしその内容を詳らかにすべき証拠は何もなく、前掲乙第七号証の一、二、同第八号証、証人亀吉の証言によれば、原告は、元来、西宮税務署長や被告に対し右土地を代金六〇〇、〇〇〇円で買受けた旨申立てていたものであり、前記日時に売買が行われ現実に代金の授受があつたと認められるのに、後日右代金が返還されたことを窺わせる証拠はなく、右売買が真実、錯誤により取消されたものとは認め難いので前記認定を左右するに足りない。

(二)  南之町の家屋(別紙第一目録(4))の贈与

前掲乙第八号証、証人磯崎の証言により成立の認められる乙第一〇号証と同証言および弁論の全趣旨によれば、右家屋は昭和三一年春ごろ建築されたもので昭和三二年一〇月二四日大阪市西淀川区役所備付の固定資産税台帳に原告名義で登載されるまでは未登記であつたが、従来亀吉が賃貸人として(第三者)に賃貸しその敷金、賃料等も同人において徴収取得していたものと認められ、右事実に照らせば、右家屋は元来亀吉の所有物件であり原告名義で課税台帳に登載されたときに亀吉より原告へ贈与されたものとした被告の認定は一応理由のあることでありこれを不当ということはできない。

尤も、前掲亀吉の証言中には原告の主張にそう供述があり、原告は、被告が昭和三二年度の審査決定をなすについて行つた調査の際も右家屋は原告の自己資金により建築せられたものであり亀吉は原告の代理人として建築賃貸の衝にあたつていたにすぎない旨申立て、これを裏づけるものとして乙第九号証(建築代の証明書)、乙第一四号証(賃貸についての原告の亀吉に対する委任状)、乙第一五号証(原告の陳述書)を提出したことが認められるが(前掲磯崎の証言)、右家屋の建築代金につき甲第八号証の一ないし四によれば一六七、〇〇〇円、乙九号証によれば二二五、〇〇〇円と認められるところ、乙第一五号証には四三五、〇〇〇円との記載がありいずれが正当な建築代金であるか確定し難くひいては右各書証の信びよう性について疑問なしとしないこと、また、右乙第九号証、同第一五号証は被告の前記調査の途中被告から原告の申立を裏づけるべき資料の提出を求められて提出されたものであり、これより以前被告は右家屋の賃貸借契約書が亀吉名義で作成されていることを確認していること(前掲乙第一〇号証、証人磯崎の証言)等の事情を考慮すると、被告が右乙第九、一五号証は後日作成された疑があるとして措信しなかつたこと(証人磯崎の証言)もあながち理由のないことではない。

結局、右甲第八号証の一ないし四、乙第九、一五号証および証人亀吉の証言のうち、右家屋の建築主は原告であるとする部分は乙第一〇号証および証人磯崎の証言と対比してにわかに措信し難く被告の贈与の認定には何ら違法はないと認めるのが相当である。

二、昭和三三年度審査決定

―長尾山の土地、家屋(別紙第二目録(イ)(ロ))について―

被告は、右土地、家屋について登記簿上は亀吉から原告への売買を原因とする所有権移転登記がなされているが右代金を現実に支払つたことを証する資料はないので贈与されたものと認定したと主張し、前記証人磯崎の証言によると、被告は原告の右年度中の収入状況からみて原告が右代金を自己資金によつて支払つたものと認め難いことおよび同年度中に原告が亀吉より譲受けた物件中別紙第二目録(ハ)(ニ)の家屋については形式上は売買により譲渡された旨登記されているにも拘らず原告自身受贈した旨申告していること等を考慮し右長尾山の土地家屋も贈与されたものと認定したというのであるが、原告の同年度中の収入を詳らかにしそれが被告主張のとおりであつたことを肯認せしめる証拠は何もなく、証拠上は、成立につき争いのない甲第九号証の一(売買契約書)および証人亀吉の証言のほか、成立につき争いのない乙第一一号証および前掲乙第一七号証の二の如く原告が右代金をその三和銀行塚本支店における普通預金より引出した金員の中から支払つた(昭和三三年四月五日三五七、〇〇〇円、同年五月一九日二一〇、〇〇〇円、同年七月三〇日二〇〇、〇〇〇円各引出し)ことを推認せしめる証拠もない訳ではなく、前記塚本町の土地の如く原告と亀吉の間で実際に売買が行われ代金も支払われたと認められる例も存することを考慮すると、本件訴訟に顕われた証拠によつては、いまだ右土地、家屋について売買の形式にも拘らずそれが贈与であつたとは断定し難いといわざるを得ない。

したがつて、被告の昭和三三年度審査決定のうち右土地家屋に関する部分はこれを贈与と認定するに足る資料はないのに贈与と認定した点においてその判断を誤つたものというほかなく取消を免れない。

三、贈与財産の価額

以上によれば、原告は亀吉より昭和三二年度中に別紙第一目録(1)ないし(4)の各物件を、同三三年度中に別紙第二目録(ハ)(ニ)の各物件を受贈したものというべきところ、右各贈与財産の価額はいずれも成立につき争いのない乙第一ないし六号証、同第一二、一三号証および弁論の全趣旨により、被告の認定(別紙第一、二目録の各金額欄記載)のとおりと認めるのが相当である。

第六結論

そうだとすると原告の本訴請求中、昭和三三年度審査決定のうち別紙第二目録(イ)(ロ)記載の土地、家屋に関する部分の取消を求める部分は理由があるが、その余の請求は失当として棄却を免れない。

よつて、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 亀井左取 裁判官 谷水央 裁判官 上野茂)

第一目録

<省略>

第二目録

<省略>

原告の昭和33年中の家賃等収入金

<省略>

昭和33年度預金・収入一覧表

1 武智祥行名義三和銀行塚本支店普通預金の入出金状況

(1)昭33.1.1現在残高 302,470円……前年分収入金の残高

(2)昭和33年中の入金額の合計 2,991,380円……入金の合計額

(3)同年中の出金額の合計 2,047,000円……同じく出金の合計額

(4)昭33.12.31現在残高 1,246,850円

(5)昭和33年中の収入金額 1,462,950円……原告所有家屋の家賃・敷金等の合計額

(6)(1)+(5) 1,765,420円……原告の自己資金

(7)(6)-(4) 518,570円……昭和33年中に原告の自己資金の減少額

(8)原告所有家屋の修理費 520,000円……33.3.24 50,000円 修理費

7.15 40,000円 〃

10.15 100,000円 〃

(9)(7)-(8) △1,430円 12.3 200,000円 〃

12.22 100,000円 〃

12.29 30,000円 〃